昭和27年の念頭に考える 世相とスカウティング
隊長の皆様、新しい年を迎えて希望に燃えて居られることと存じます。隊員たちも、皆成長します。この成長ということによって私どもは元気が出ます。1年366日という閏年の新年を迎えて、今年は一日よけいに訓練できるなァーと、当地の隊の人々も、ほほえんでいます。
さて、今年はわが日本も講和条約の発効によって、自立独立国となるようですが、たとい政治的においては、まだ他国の援助を必要とするなさけない状態であります。しかるに、あたかも、完全な独立独歩の国になったかの錯覚を抱いて、一部国民の中には早くも外国を排斥して、日本独自のなんとやらを発揮すべきだ、などと力み出す。いわゆる保守反動の国粋派が出かかっている。これら浅見、短慮な者の浅はかな言動というものは、必ずや物笑いになり、かえって外侮を招き、世界の信頼を失う結果となるでしょう。何と申しても、食糧の不足を他国から仰がねばならない。それには支払いのドルがいる。そのドルは貿易によって稼がねばならぬ。その貿易は生産工業による生産品を売ることにある。その資材原料は、これまた外国から買わねばならぬ。かつ動力たる石炭、電力の不足は皆様の周知のとおりである。輸送力にせよ、トラック、汽車、汽船、航空機の力の不足で、現在でも莫大なる滞貨がある。
このように見るならば、今の日本は、外国の信用を失ったが最後、明日の生活にも事欠くような経済事情である。ドッヂ氏は大きな警戒を残して先般帰米しましたが、結局日本人は少し上調子になっていますね。こうした世相の中にあって、我々はScoutingを展開しているのです。そこで私はいろいろと考えさせられています。その一端を申して見ましょう。
〔第1〕 余人はどうあろうと、我々スカウトは、おきての8の示す、質素な生活をしなければならない。耐乏の生活とは申しません。耐乏という言葉は、創意工夫をしない物臭さを思わせるからイヤです。社会の一部では、温泉に半月もつかっているような人もありますが、病人でない限り、現下日本の経済事情から考えて、どうかしていると思います。私どもに万一かかる余裕があったとしたら、それは隊の経費に捧げるでしょう。我々はそういう恵まれたチャンスをもちます。
ここ、塩原温泉に通ずるバスで毎日社用族がセッセと金を捨てに行くのを見ると、その反面、一家心中するような社会を思わずにいられません。かかるバランスのとれない世相というものは、実に恐ろしい世相であります。質素の泉まで後退して、足もとの世相をよく見るべきです。
〔第2〕 口に平和平和と叫びながら、その人が若い女の問題で家に波風を立てているならば、矛盾も甚だしい次第です。男にしろ女にしろ貞操というものが平和の根本であることを思います。スカウトが平和の斥候であるかぎり、まず範を示すべきでしょう。
〔第3〕 世界は民主主義と共産主義と、独裁主義の3つ巴になっているようです。私1個の上にも、この3つは巣喰っていないとは申されません。或るときはオヤジの権力を振りまわす独裁者になり都合のよい時には民主主義の立役者になり、時には得手勝手な理屈をつけて共産主義みたいなァと自省することもある。しかしScoutingはファッショ(独裁)でない。また無神論者でないからコミュニズム(共産主義)でもない。ハッキリと民主主義なのである。だから私が、スカウトである以上、デモクラシーの精神を深めこれを身につけるよう昇華(Sublimate)して行かねばならぬ。講和後の日本は、恐らくこの3つ巴が今日よりも一層激化するであろう。そして去就に迷う人、裏切る人、中間子的存在も現れるだろう。スカウトは迷わない。
〔第4〕 先にはスカウトでもない者がSea Scoutを起こそうとし、次にはこれまたスカウトの何たるかを知らない人たちがAir Scoutを始め、航空教育をやるという。なぜ、海洋青少年団とか航空少年団と云わないで、スカウトと称するのだろうか? 青少年団という名は戦時中の名称として面白くない。それよりもスカウトと称した方が当世向きだ――と、いう考えらしい。だから日本人はモノを知らなすぎる――と外人は笑う。スカウトという特殊なものがありそれを日本で行うならば、ボーイスカウト日本連盟に必ず加盟し、登録せねばならぬという世界的常識を彼等は持たないのである。BSJに加盟せぬ限り、世界公認のスカウトは1人もあり得ない――ということを、私どもは世人に周知させる責があるようだ。
いよいよ今年からCub Scoutも、Senior Scoutも発生して、Sea ScoutやAir Scoutも出来るであろうからそれらがBSJの中に立派な足場を占めれば、あんな馬鹿げた問題は起こるまい。
当村の那須第13隊が生まれて以来、毎土曜午後、少年達はこの森の中でいろいろな訓練を行い、指導者達は週に一夜は、私とここで指導の研究をしています。私も相談相手になっています。出来る限り教材、資料を提供しています。昔の実修所を出た人も加わっています。隊の成長は個人の成長、個人の成長は隊の成長です。研究のようすが気になります。
こうして今年も愉快にやります。皆様、どうぞ元気で、皆様の研究されたデータなりプリントされたものなど、お送り頂ければうれしいものです。貴隊の成長を祈ります。弥栄。
(昭和27年1月1日 記)



