何を備えるか
“そなえよつねに”という言葉は一体何に備えるのだろうか? 何を一体備えるのだろうか? こういう自問を発してみた。普通、この標語は、いつなん時、いかなる場所で、如何なる事が起こった場合でも、善処、処理出来るということ、昔の言葉でいうと、一旦緩急あれば義勇、公に奉ずるというような、こと危急の場合、突発事件などに際して、あわてず憶せず、難にあたり奉仕するというような解釈が唱えられている。Scouting for Boysにも、そう説明した章があることは周知のとおりである。けれども、私は危急の場合非凡な働きをするばかりでなく、平生平凡なことにも役立つ――と考えたので“やまびこ”誌には、これは「役立てつねに」と云いかえた方が、わかりやすいと書いたことがある。ところが今回は、何に備えるか、何を備えるか、という自問が出た。
まずそれには、心に備えるところ、かつ心を備えねばならぬ――と考えた。次には体に備え、丈夫な体を作らねばならぬ――と思った。しかし、それだけではいけない。溺者を助けるにも、水泳や結索法や人工呼吸法が出来なければ駄目、そこで技術(わざ)を修め、それが自分で出来なければならぬ。すなわち、技に備え、技を備えねばならぬ。そこで人格、健康技能を備えよ。つねに――ということになるが、この三つは結局、世のため人のため、奉仕するに備えることである。私はここまで考えた時にScouting for Boys巻頭にベーデン・パウエルが挙げたScouting指導の四つの柱を思い出して、豁然としたのである。
The subjects of instruction with it fills the chinks are individual efficiency through development of
Character
Health, and
Handicraft in the individual, and in Citizenship through his employment of this efficiency in
Service
とベーデン・パウエルは記している。
私はHandicraftを単に手技と解釈せず、術科、技能、すなわち術技と解した。この人格(Character)健康(Health)技能(Handicraft)と奉仕(Service)に備えること、かつそれらを身につけ築き備えることを、この標語は示していると思ったのである。
だから、ベーデン・パウエルは必ずしも突発事件や危急に備えよとばかりは考えなかったと思う。Scouting指導の主たる土台は、人格造立、健康安全、技能取得、公益奉仕の四つにあること、そこでスカウトは、この四つに備えよ、いつも、つねに、とこれを要約して標語化したものだと思う。“Be Prepared”の標語“そなえよつねに”の真意はこれだと思った。さらにこの四つの柱からほぐして解析すれば、Scoutingの構成原理がつかめるように思われた。
(昭和26年11月1日 記)
ちーやん夜話集 索引
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- ちーやん夜話集 03.スカウト象にさわる
- ちーやん夜話集 04.スカウティングと社会性
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- ちーやん夜話集 07.ローバーリングは電源である
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